学術論文事業を始めたきっかけ ~オープン・アクセス学術誌立ち上げ記(2)~

■2014年07月09日

 

2005年7月、ちょうど今ぐらいの季節でしたが、私は2年間務めたポスドクを辞め、経営コンサルティング会社に転職しました。ポスドクは5年間の期限付きで、遺伝子の転写制御の仕組みを研究していましたがその2年目のことです。グループリーダーという役職まで付けてもらっていたので、研究者としては比較的恵まれていたポジションでしたが、それを捨ててビジネスの世界に飛び込みました。

 

論文投稿の苦しみ

2003年の冬頃だったと思いますが、ずっと研究してきた成果として、Natureに投稿しました。
論文の投稿は誰でも出来ますが、アクセプトされて初めて論文として世の中に広まります。そのアクセプトに至る確率ですが、Natureはおよそ3%だと言われています。私の論文は、投稿から1週間以内にリジェクトされました。

論文の投稿は、同時に複数は投稿できないので、周囲の意見、とりわけ上司の意見を参考に、アクセプトされる可能性があり、かつ権威の高い投稿先を決定するのが一般的です。また、論文の投稿の様式というのは雑誌によって規定があります。リジェクトされた論文は、様式を整えて、必要なら追記して別の雑誌に投稿します。

私の論文は、2-3週間かけて文面を書き換えて、Scienceに投稿しました。残念ながら、こちらも1週間でリジェクトされました。次は、順番通りCellです。Cellはフルペーパーなので、Figureの数量を増やしたり、章立てを見なおしたりといった大改訂が必要となり、投稿準備に数週間を要しました。この時点で既に季節は春を迎えていました。

Cellへの投稿は、査読され、ネガティブコメントは多かったもののリバイズの機会まで辿り着きました。リバイズとは、コメントに対して、論文に適切な修正を加えて再提出するプロセスです。このプロセスに辿り着くということは、論文がアクセプトされる可能性が高くなったことを意味します。

この結果が来たのは既に初夏になっていました。そこから何としても論文を通したいと、追加実験を行うものの、狙ったデータが思い通りに出ません。客観的に見て、残念なことに私は手先が不器用で、その上レシピに忠実に行うのも得意ではありません。そんな実験スキルの低い私は、人並みのデータを出すために、人の何倍も実験が必要で日々疲弊していました。苦し紛れに論点を変え、結論をやや弱くして再提出しました。

 

失恋し、これからも研究者として進むのかを考えた

残念ながらCellへの再提出もリジェクトとなりました。Cellに投稿した日から半年、Natureに出してからは1年の時がかかっています。当時の私は、研究の本質は何も進歩しないにも関わらず、1年経っても論文が通らないという日々に葛藤していました。

「もうブランドジャーナルでなくて良いから論文として終わりにしたい」気を抜くとそんな弱音が出てしまう状態でした。
しかし、私の上司が選んだ次の投稿先は、Natureの姉妹誌、Nature Cell Biol.(NCB)でした。

そのNCBに投稿して査読の結果を待っている頃に、私は当時付き合っていた彼女へ失恋しました。失恋を契機に、改めて自分と向き合ってみると、研究自体は大好きだが、今後も実験生物学を続けていったとして、一線で活躍できるかということに不安がある自分に気づきました。そして、研究者として集中した日々よりも、研究を俯瞰して応援する事の方がもっと好きだと気づいたのです。

こうして、失恋を契機にとして研究者とは別の方向性を目指すことに決めました。(あのときの彼女、目を覚まさせてくれてありがとう!)

 

いつかNatureを買収してやる

NCBの査読結果はCellと同様に、ネガティブなリバイズ。数ヶ月の追加実験をして、再提出したもののリジェクトでした。2005年当時は、堀江 社長のライブドアがM&Aを繰り返していた絶好調の時期でしたが、私も「いつかNatureを買収してやる」と捨て台詞して、研究の世界を去りました。

長すぎる査読、論文を通さないための査読には膨大な時間が費やされ、本質的な研究はまったく進まない、論文のためのScience。そんなものはScienceではありません。論文の世界はもっと良く改善できるところが沢山あり、変化を求めている人も沢山います。Natureを買収すれば、それが出来るはず。

「いつかNatureを買収してやる」これは、そんな気持ちを込めての発言でした。その時は、自分が後にNatureのような総合科学学術誌を創刊するなどとは考えてもいませんでしたが、今私は学術論文をイノベーションする仕事を、Science Postprintによって実現しようとチャレンジしています。

転載元: JMマガジン
http://job-medley.com/magazine/

 

過去の記事

学術論文なんて事業になるの? ~オープン・アクセス学術誌立ち上げ記(1)~

 

著者情報

竹澤慎一郎
ゼネラルヘルスケア株式会社 代表取締役。農学博士。2003年東京大学大学院博士課程修了後、2年間の研究職を経て、2005年に経営コンサルティング会社に就職。生命科学者向け情報サービスを手がけるバイオインパクト株式会社を共同創業後、2007年医療・ヘルスケア分野の総合マーケティング支援を目指したゼネラルヘルスケア株式会社を創業。現在に至る。




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