アーネストコラム「酒酒落落」 医療通訳者アビー・ニコラス・フリューさん「医療通訳者にとって欠かせないもの」

■2013年08月19日

 

最後に、医療通訳者にとって欠かせない点は色々とあるのですが、二つに絞ってご紹介したいと思います。

一つ目はプライバシーを守る事です。患者さんの氏名・年齢・性別・住所・国籍などはもちろん、その人の病状、処方された薬や検査とその結果、どこの病院で何科の診察を受けたのか、医療従事者との間での話の内容は一切外に漏らしてはいけない決まりになっています。また医療従事者やスタッフなど、病院内のすべての人のプライバシーも同様です。

さらに、通訳者自身の個人情報も漏らしてはいけません。自己紹介する時は氏名全部を名乗る事さえしないのですが、なぜでしょうか?
患者さんに通訳者の電話番号が知られてしまったと想定しましょう。慣れない国で生活するという事自体に、度合いは一律ではないにしても、ストレスの要素があります。人によってはそれが精神の不安定につながる場合も少なくありません。そんな患者さんから相談の電話がかかって来たら、通訳者は正しく責任を持って最後まで対処できるでしょうか。
通訳者は精神医学の専門家やカウンセラーではないため、誤った助言や手助けはかえって状態を悪化させることにもなりかねません。だからこそ個人情報を教えることはタブーであり、通訳者自身の家族や身内の前で話題にする事すら厳禁なのです。

そんな仕事ですから、慣れてくると独りで重荷を背負い込んでしまうことがあります。そんな時は守秘義務が保たれる相談相手、例えば同じ活動をする仲間の上司やコーディネーター、カウンセリング専門家などに話を聞いてもらうことで、通訳を続けるための三種類の健康(経済的健康・精神的健康・身体的健康)を維持するべく努めています。

 

 

可能な限り、仲間同士でコミュニケーションをとることを心がけています。

二つ目は、患者さんが話しやすい態度を心がけることです。
通訳者の心の中にある、患者さんに対する思いやりや意気込みは表立っては見えませんが、初対面の患者さんに信頼してもらうにはどうすればよいでしょうか。まず、出身国の文化や習慣を理解し尊ぶことです。

一般に言葉の壁がある時、人は視覚での認知に頼るところが大きいといわれます。しかし表情や動作による印象の違いは国や文化によって時には大きく異なり、絶対的な目安など元々ないから大変です。親しみ易くするのは良い事のはずですが、その受け取られ方が国によって、文化によって、個人によっても異なります。
例えば、握手や相手の目を見て話すことが親しみや信頼を表すという欧米の常識は、別の文化圏から来た人たちにとっては不快なこともあります。また首を振るしぐさがYESの意味となる文化圏も存在します。また同じ文化圏の人であっても、個人により個性があるのは、各国共通ですよね。

第2回の記事で、患者さんの訴え・医師の発言に通訳者の考えや意見を混ぜてはいけないとお伝えしました。
ところが例外として、患者の文化的背景や習慣についての情報が、患者の診断や治療に必要であると考えられる場合、それを医師に伝えることがあります。例えば、宗教的な理由で輸血が出来ないために手術を断るかもしれないという場合や、断食の時期で日中食事が出来ないために食後の薬が飲めないという場合などです。

 

 

世界には日本ではあまり知られていない文化や習慣が多くありますが、それらを無視するのは人権を奪う行為に等しいと言えると思います。医療通訳者は医療を施す資格もないし、外国人患者を助けていると考えるのは正しくありません。医療通訳とは、「人が人である権利が奪われる事態が起こる」のを防ぐための支援をする行為、と言っても過言ではありません。だからこそ異文化理解の勉強が欠かせないのです。

通訳と聞くと日本ではエリートと捉えられがちで、実際そういう面もあるでしょう。しかし仲間たちの殆どは(たとえそうであったとしても)肩書や学歴や生活水準など何とも思っていないし、患者さんの立場に立って通訳を務めようとします。会議通訳でも商談通訳でもエスコ-ト通訳でもなく、MICかながわの医療通訳は「コミュニティー通訳」なのです。
従ってその活動は、「同じ地域に住む同じ人間同士が文化や言語の違いを乗り越えて、互いに支え合いながら多文化共生が出来る社会を築こうとする」という考え方に支えられていると思っています。

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通訳者は、通訳者自身が各種制度に精通した専門家として動くのではなく、専門家につなぐのが役割です。医療に関わる専門家や関係者の役割や仕事内容を把握することで、うまく連携をとる。そして自身が通訳に徹することで通訳の正確性が維持され、誤りを防ぐことに繋がります。医療関係の専門家や相談窓口の連絡先を知っておく事で、患者と専門家との間の架け橋になることこそ、コミュニティー医療通訳としての本望だと思うのです。

私たちMICかながわの通訳者たちは、このようなことを大切に活動を続けています。この記事をきっかけに、医療通訳という活動について少しでもご理解いただける人が増えれば、こんなに嬉しいことはありません。(終)

 

★「医療通訳」と「MICかながわ」について、英文でもご執筆いただきました。
こちらもぜひご覧下さい。(クリックで記事が読めます)

MIC Kanagawa and medical interpretation.pdf

 

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過去記事

アーネストコラム「酒酒落落」 医療通訳者アビー・ニコラス・フリューさん「一般通訳と医療通訳の違い・通訳の際に気をつけておくこと」

アーネストコラム「酒酒落落」 医療通訳者アビー・ニコラス・フリューさん「医療通訳という活動と『MICかながわ』」

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