SERVE- HF and Beyond

■2016年05月10日

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はじめに

欧州で行われたASV臨床試験「SERVE-HF」では、ASV(ASV: adaptive servo ventilation)導入により予後が有意に悪化するという結果が得られた。SERVE-HFにおいて全登録患者数の10%以上(133名)をフォローし、心不全患者におけるASV導入について豊富な臨床経験と多くのデータを保有するOlaf Oldenburg氏をゲストに迎え、本邦でASV導入経験が豊富な8名の先生とラウンドテーブル・ディスカッションが開催された。SERVE-HFの結果やASVの適応を中心に、活発な議論が展開された。

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SERVE-HFでは「ASV導入により全死亡率、心血管死亡率が有意に悪化する」という結果が得られた。しかしこの結果は、中枢性睡眠時無呼吸( CSA: central sleepapnea)優位で左室駆出率が低下した心不全( HF-rEF: heart failure with reducedejection fraction)患者を対象にした試験であり、EFが維持された心不全( HF-pEF:heart failure with preserved ejectionfraction)患者や、閉塞性睡眠時無呼吸( OSA: obstructive sleep apnea)優位の心不全患者にまで一般化することはできないとOldenburg先生は強調した。SERVEHFの患者群以外へのASVの適応については、いくつかのランダム化比較試験が予定されており、それらの試験の結果を踏まえたうえでさらなる議論を行いたいとした。
 また、SERVE-HFでは低呼吸の定義が広かったことで、広い病態をカバーしてしまい、本来ASVの適応でなかった心不全患者がSERVE-HFに取り込まれてしまった可能性を指摘した。そこで、無呼吸低呼吸指数( AHI: apnea hypopnea index)よりもふさわしい診断マーカーとして、睡眠中に酸素飽和度( SPO2)が90%以下となる時間をT90と定義し、低酸素血症を治療ターゲットにすべきではないかと提唱した。
 ASV導入にあたっては安全であり、効果が期待できることが求められるとして、SERVE-HFで予後が悪化した患者群の同定と、その原因を明らかにする議論も必要であると述べた。

ラウンドテーブル・ディスカッション

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SERVE-HFの結果について

doc01小糸:SERVE-HFの対象患者は安定期の心不全患者ということでした。しかし、ほとんどの患者の左室駆出率(LVEF: left ventricular ejection fraction)は30%以下であり、植え込み型デバイスの使用率は50%以上であることから、実際にはやや不安定な重症心不全だったのではないでしょうか。

doc02Oldenburg:確かに患者の平均LVEFは32~33%でした。また、中央ヨーロッパではデバイスの使用率が日本よりも高いのです。これはガイドラインの問題であり、診療報酬の違いでもあります。

小糸:抗不整脈薬について、ASV導入群は対照群に比べて有意に高い併用率でした。結果に影響しなかったのでしょうか。

Oldenburg:有意差はありました。しかし、いくつかのモデルで調整すると統計学的には結果に影響しません。

doc03中村:持続的陽圧呼吸(CPAP: continuous positive airway pressure)の大規模ランダム化比較試験であるCANPAPでは、初期の死亡率がCPAP導入群で多いように見えました。つまり、重症心不全患者のなかには、陽圧換気を導入してはいけない患者群がいるのではないでしょうか。今回、SERVE-HFで患者を直接見られたなかで、陽圧換気を導入するとリスクが高まる、例えば心血管イベントが発生しやすくなる患者背景などを感じ取ることはあったのでしょうか。

Oldenburg:それは重要な課題です。体液貯留がどの程度起きているのか、楔入圧(wedge pressure)はいくつか、この2点は関係していると私は考えます。また、右心機能も低い場合には注意すべきでしょう。心房細動の有無も関係しているかもしれません。これらとASV導入における死亡率の相関を明らかにしなければいけません。しかしドイツではもはや、SERVE-HFの対象となった患者にASVを導入することはほぼ認められていません。ぜひ日本で検証していただきたいと思います。

doc04安藤:SERVE-HFでは多くの国や施設で行われましたが、国や施設間で結果の違いはあったのでしょうか。

Oldenburg:国や施設間の違いについての詳細は今後明かされるでしょう。私も今後、SERVE-HFの結果と当施設のデータ、特に死亡率を比較しようと考えています。ひとつ言えるのは、睡眠呼吸障害(SDB: sleep disordered breathing)の診断において、ドイツではポリソムノグラフィ(PSG: polysomnography)による診断が必須ですが、フランスではポリグラフィ(PG: polygraphy)のみでよいという違いがあることです。この違いは大きいでしょう。

doc05義久:SERVE-HFに関連した追加のデータは今後公表されるのでしょうか。

Oldenburg:心エコーや血液検査などのデータが2016年の前半には公表されるだろうと運営委員会から聞いています。

小糸:慢性心不全患者には、ASVが有効である患者と有効でない患者が存在し、右室機能が重要であるとOldenburg先生は述べておりました。今後公表されるSERVE-HFのサブ解析には心エコー検査が含まれるそうですが、右室収縮機能の指標である三尖弁輪移動距離(TAPSE: tricuspid annual plane systolic excursion)などの右室機能も含まれるのでしょうか。

Oldenburg:サブ解析でどのパラメータが使われるのか、私にはわかりません。ただ、SERVE-HFの試験中では、最終的にどのパラメータが使われるのかわからないので、当施設ではTAPSEをルーチンのパラメータとして使っています。

小糸:チェーン・ストークス呼吸(Cheyne Stokes respiration)は有害か代償かという議論についてどう思いますか。

Oldenburg:我々の患者やデータを見る限り、長期的にはCSRは有害であると考えています。

中村:単純なCSRの有無だけでなく、周期の違いなどによるCSRの重症度分類は可能なのでしょうか。

Oldenburg:考え方には同意します。実際、周期が増えるほど心不全は進行します。周期などを取り入れたアルゴリズムの構築を目指しているのですが、簡単ではありません。そこで提唱しているのが低酸素血症の測定です。数値をもって判断でき、信頼できるパラメータです。

ASVが適応される患者群について

doc06葛西:心房細動や僧帽弁逆流などをもつHF-pEFの患者に対しては、以前からASVを導入していると思いますが、今でもASVを使用し続けているのでしょうか。続けているのであれば、患者にどのような説明をしているのでしょうか。

Oldenburg:患者全員に電話して、多くの方に来院していただいて説明しています。患者にはSERVE-HFの結果について、「あなたにはリスクがあるかもしれません」と説明し、反応をうかがいます。もし患者が、リスクを受け入れるからASVの導入を続けてほしいと主張すれば、署名をしていただいています。しかし、そのような患者は全体の10%程度です。
 もし患者が困惑しているようなら、別の方法でフォローアップします。例えば、OSAとCSAの出現率が半分ずつの混合型であればCPAPに切り替えます。もし患者にCSRが残っている場合、どのような処置が適切なのかいまだにわかりませんが、まずは在宅酸素療法(HOT: home oxygen therapy)を行います。
 また、講演の最後で述べたように、低酸素血症に注目する必要があると考えています。患者にCSRがあり、SPO2が90%以下になるのであれば、低酸素血症を治療ターゲットにすべきだと考えています。しかし、データが十分でないのが現状です。データが多く集まれば、新たな治療法となるでしょう。

葛西:ASVの使用を中断すると心不全が悪化する患者が当施設にいます。Oldenburg先生の施設にも、そのような患者はいるのでしょうか。

Oldenburg:もちろんいます。しかしどのような患者がそれに該当するのか、注意深く見極める必要があります。ASVの使用を続けることでベネフィットを受ける患者もいれば、悪化する患者もいます。その違いを明らかにするために、患者レジストリを作成する計画があります。
 今すぐにできることは、常に患者を観察することです。睡眠治療においても、心臓医の存在が必須でしょう。

義久:今回のSERVE-HFの結果を受けて、ASVの使用が積極的に勧められる患者とはどのような群でしょうか。

Oldenburg:まずはHF-pEF患者における試験を実施する必要があります。しかし現在までに、ASVの機序を解明する研究は十分とは言えません。右心室、左心室にどう機能するのか、充満圧に影響はあるのか。試験を実施する前に、これらの疑問を明らかにする義務があります。我々は現在、HF-pEFを対象にした小規模なASV導入試験を予定していますが、ASVの機序の解明も欠かせません。SERVE-HFと同じことを繰り返してはいけないのです。

義久:LVEFが30~45%の患者なら、比較的安全にASVを導入できるのでしょうか。

Oldenburg:導入できるかもしれませんが、注意を払う必要があります。もし、LVEFが40%でCSRを合併しており、除細動器が植え込まれているのなら、我々はASVを導入するでしょう。なぜなら、仮にLVEFが低下しても除細動器が作動するため、リスクは低いと判断するからです。しかしながら、患者ごとに考える必要があり、個別に判断すべきです。一概には言えません。

肺うっ血解除、睡眠の質向上のためのASV導入について

安藤:心機能が低く、CSRを合併する慢性期の患者へのASV導入には慎重になるべきです。ただ、ASVは肺うっ血の治療に有効であり、急性期や回復期では肺うっ血を解除するためにASVを導入したいと考えています。日本では入院中だけでなく、退院後も2~3ヶ月はASVを使うことがあります。この点についてはどうお考えでしょうか。

Oldenburg:病態生理学的な観点から、それは有効でしょう。ただ、日本とヨーロッパの医療環境の違いを認識していただきたいと思います。ヨーロッパでは急性非代償性心不全(ADHF: acute decompensated heart failure)による入院はたった5日間程度ですが、日本はもっと長いでしょう。また、我々の場合には利尿剤を投与することが多いのです。日本の患者よりもwedge pressureが低いことが理由なのかもしれません。

doc07菅野:ASVは心拍出量を増やし、血行動態を改善する効果があり、患者も楽に感じるところがあります。そのため、急性期に肺うっ血解除のためにASVを導入することがあります。このような使用方法についてはどのようにお考えでしょうか。ドイツでも実施しているのでしょうか。

Oldenburg:急性期の患者にASVを含む陽圧換気を実施することは、心拍出量の増加、利尿作用の促進という意味において有効でしょう。
 しかしながら、当施設ではそのような使い方はまれです。当施設にある3台のASVデバイスはアラームシステムと接続されておらず、看護師や救急救命スタッフにとっては使い勝手が悪いためです。また、ASVデバイスは小型ですが、ドイツ人は大型の機器を好む傾向にあります。このような背景の違いがあります。

菅野:急性期にASVを導入して以降、慢性期でも肺うっ血が残る患者に対してASVを使用し続ける患者が当施設でも少なからずいます。SDBの有無に関わらず、在宅でもASVの導入を続けることについてはどうお考えでしょうか。

Oldenburg:我々やフランスのデータから、ADHFの患者の80~90%がCSRを合併することが明らかになっています。急性期を離脱してからも、CSRが長く残ることがあります。その場合にはASVの使用を続けることは有効かもしれません。しかし、SERVE-HFのような慢性期の患者には推奨できません。
 ただ、サブグループを同定する必要はあるでしょう。退院から数ヶ月後にはASVを中断してもよい患者と、使用し続けなければいけない患者の2種類がいると考えられます。退院後も毎月患者を診察する日本なら、その違いを明らかにできるかもしれません。

doc08佐田:患者にとって快適性は重要だと、個人的には考えています。快適性という点においては、CPAPよりもASVのほうが優れているのでしょうか。

Oldenburg:難しい問題ですが、SERVE-HFのデータを調べなければいけません。症状と死亡率は関係しているのでしょうか。言い換えれば、症状が改善した患者と、死亡率が改善した患者との比較がないのです。ご存じのように、SDBは夜間の問題であるため、症状を把握することが困難です。症状を評価する新たなマトリクスを設ける必要があります。

佐田:もしASVを使うことで患者がよく眠れるのであれば、私はASVを使うと思います。

Oldenburg:それならPSGを実施し、患者の睡眠データを確認すべきです。SERVE-HFでは、ASVの導入によってレム睡眠の時間が約1割増えたと聞いています。レム睡眠では交感神経活性が亢進されますが、それが死亡率とどう関係するのか、現時点ではわかりません。

安藤:当施設に、徐波睡眠がまったくなく、睡眠ステージが1または2しかない患者がいたのですが、ASVを導入して1週間後には徐波睡眠が増え、浅い眠りが減ったという症例がありました。酸素レベルの変化に関係なく、ASVが有効である不眠の患者がいると考えています。酸素レベルと睡眠の質には本当に相関があるのでしょうか。

Oldenburg:ASVによって睡眠の質が向上するという報告はしばしばあります。しかしながら、徐波睡眠が増えても無呼吸・低呼吸が残る場合があります。逆に、AHIの減少が睡眠の質の改善につながるとは限りません。AHIが25回/時であっても、PSGのデータ上は睡眠の質が良好である場合もあります。その理由は明らかになっていません。

安藤:AHIが心不全の適切な指標とは思えないのです。

Oldenburg:私も同感です。AHIよりも適切なマトリクスを新たに作るべきでしょう。

安藤:陽圧換気では、過剰な圧は心拍出量を減少させ、患者をリスクにさらすことになります。OSAとCSAの両方がある混合型の慢性心不全患者に陽圧換気を導入するとき、呼気気道陽圧(EPAP: expiratory positive airway pressure)の設定で注意していることは何でしょうか。

Oldenburg:圧はできるだけ低く設定します。マスクのフィッティングは日中にしかできませんが、患者をベッドに横たわらせ、看護師か検査技師がそばにいる状態で30~60分間デバイスを動作させ、血圧を測定します。例えば、動作前の血圧が120 mmHgだとして、動作後に95 mmHgまで降下しても他の症状がなければ、特に心配する必要はありません。しかし、動作前の血圧が90 mmHgで、動作後に75 mmHgまで降下するのであれば注意を要します。もし患者が何らかの症状を訴えるようであれば陽圧換気は中止します。これらに一律な基準はなく、個々に判断します。

CPAPの適応について

葛西:左室収縮不全のない心房細動で、CSA優位の患者にCPAPを導入していますか。

Oldenburg:患者にリスクをもたらすため、現在は導入していません。また、CSAに伴うCSRの治療には十分に注意を払うべきです。HOTなど、陽圧換気以外の方法を導入するときでも同様です。

葛西:では、OSA優位の心不全患者にはCPAPを使い続けているのでしょうか。

Oldenburg:使い続けています。ドイツの学会はそのように推奨していますし、我々も正しいと考えています。特にOSAを合併するHF-pEFの患者には有効でしょう。

葛西:OSAとCSAの割合がちょうど半分くらいの患者で、特別に気を付けることは何でしょうか。

Oldenburg:OSAが優位になればCPAPを導入します。しかしながら、もしASVのほうが有効であればASVを導入するでしょう。できることといえば、患者を注意深く観察し、デバイスの効果を確認することです。

義久:CPAPとASVの使い分けについて、どのようにお考えでしょうか。

Oldenburg:PSGまたはPGを実施し、OSA優位であればCPAPを導入します。そうしなければ診療報酬の対象とならないという事情もあります。

doc09沢田:日本では欧米に比べて冠攣縮性狭心症の頻度が高く、冠攣縮性狭心症を有する患者でOSAを合併することも多いようです。こうした症例にはCPAPもしくはASVの使用を推奨していますが、そもそも急性冠動脈症候群や冠攣縮性狭心症を予防するために陽圧換気療法は有効なのでしょうか。

Oldenburg:OSAが夜間に発生する急性心筋梗塞のリスクファクターであるというデータは存在します。OSAを治療すれば、急性心筋梗塞のリスクが下がる可能性はあります。しかし、それを証明するランダム化比較試験はありません。
 2年前に、両室ペーシング機能付き植え込み型除細動器 (CRT-D: cardiac resynchronization therapy-defibrillator)の患者を対象に行った試験では、OSAに由来するショックは深夜から午前6時にかけて起きるのに対して、CSAに由来するショックは24時間ランダムに起きていることが明らかになりました。SERVE-HFの患者の死亡時刻も24時間ランダムでした。SERVE-HFでは約半数の患者が植え込み型デバイスを使っていましたが、植え込み型除細動器(ICD: implantable cardiac defibrillator)のショックが起きる回数は、ASV導入群のほうが低い傾向にありました。しかしながら、その理由は不明です。

沢田:夜間睡眠中の低酸素血症がこれらのイベントを引き起こしているのかもしれない、ということでしょうか。

Oldenburg:そうです。そこで陽圧換気が有効に作用するかもしれません。

日本とヨーロッパの違い

小糸:日本とヨーロッパでは医療制度が異なり、フォローアップの状況も違います。この点についてはどのようにお考えでしょうか。

Oldenburg:ドイツでは外来の診察は3ヶ月ごとに行います。フランスやイギリスではまた異なるでしょう。日本では外来患者を毎月診察するということなので、より注意深く患者を観察できるのは素晴らしいことです。

安藤:ドイツではPSGを実施するとお話されましたが、ASVの導入後も実施しているのでしょうか。

Oldenburg:SERVE-HFでは、フォローアップ前の段階でフルPSGを実施しました。ASV導入中もPSGを実施しました。先ほどASV導入によってレム睡眠の割合が増えたとお話しましたが、PSGを実施したからわかったことなのです。

安藤:日本の健康保険制度では、LVEFが35%以下かつ脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP: brain natriuretic peptide)が著しく高値の重症心不全患者のみASVを導入できます。しかし、この現状はSERVE-HFの結果と矛盾します。なぜでしょうか。

Oldenburg:この場で深く議論できませんが、日本では外来患者を毎月診察できるので、より詳細に患者の状況を把握できるはずです。患者を診察するなかで、もしBNP値が下がり、ニューヨーク心臓協会(NYHA: New York Heart Association)による分類クラスが改善したとすれば、その患者はSERVE-HFの対象患者とは異なると判断できるでしょう。患者と接する機会が増えることで、ベネフィットを享受できる患者と享受できない患者の違いを同定できるはずです。

佐田:日本の健康保険は、ASVは心不全のすべてをカバーしていません。そのため日本では、心不全患者にASVを導入することが容易ではありません。ASV導入のクライテリアを示していただけないでしょうか。

Oldenburg:心房細動をもつHF-pEF患者ではCSAを高く有します。心房細動とCSAはつながっているため、その患者にはASVを導入しています。他にも、心臓発作につながる心疾患、腎不全などがあるときにはASVを導入します。
 しかしながら、いずれの場合もベネフィットを示さなければいけません。そのためには死亡率の長期的な推移に関するデータを多く集める必要があります。ただ、この場で呼びかけたいのは、試験を実施する前にデバイスの作用機序の研究をしてもらいたいということです。
 もうひとつ大切なことがあります。HF-pEF患者にASVを導入することは有効であると考えられていますが、HF-pEFをどう定義するかという大きな問題があります。

HF-pEFの定義の難しさ

佐田:HF-pEFの定義の問題とは何でしょうか。

Oldenburg:この10年間、HF-pEF患者に何らかの治療法を行いベネフィットを検証する試験が多く実施されたのですが、ほとんどが失敗に終わりました。HF-pEFの定義が広すぎて、多くの病態を含んでしまったからであると考えられます。まずはHF-pEFの定義を明確にする必要があるでしょう。

義久:HF-pEFにはヘテロな病態が多く、さまざまな原因疾患があるので、明確な定義を作りにくいという点は同意します。

菅野:ASVのターゲットとなるHF-pEF患者とはどのような群でしょうか。

Oldenburg:まずはHF-pEFを明確に定義することです。その患者がSDBを有していれば陽圧換気を導入し、血管抵抗や心拍の変化、リモデリングの有無を観察すべきでしょう。私見ですが、血管抵抗の減少が長期的にはベネフィットをもたらすのではないかと考えています。

菅野:HF-pEF患者におけるASV導入を評価した試験はあるのでしょうか。

Oldenburg:小規模のパイロット版を計画しているところです。CSRを合併するHF-pEF患者20~30名を対象にASVを導入する二施設ランダム化試験です。今はどのパラメータを設定し、どの変化を観察すべきか策定しています。HF-pEFの定義については、欧州心臓学会(ESC: European Society of Cardiology)のガイドラインに則り、充満圧を評価します。BNPの高値やCSAの合併も含めたものです。

佐田:CSRが高い頻度で起きるHF-pEF患者にASVを導入するのはやめるべきなのでしょうか。

Oldenburg:そのような患者を対象にした小規模のランダム化試験を実施する予定があります。そこで判断すべきでしょう。

中村:HF-pEF患者には高齢者が多く、脳梗塞や高血圧、糖尿病などを併発しやすい傾向があります。CSAは心原性だけでなく、脳梗塞に由来する場合があるので、脳梗塞がある人は試験から除外するなどの手法を採らないと、HE-PEF患者の試験は難しいのではないでしょうか。

Oldenburg:おっしゃる通りです。もうひとつ、性別も重要です。我々のHF-rEF試験では90%が男性で、アメリカでは男性が100%です。しかし、HF-pEF患者には女性が多くいます。女性ではCSAが少ない傾向にあり、年齢が低い一方で、睡眠時間は長いという特徴があります。しかし、性別によってどのような違いが起きうるのか、現時点では予測できません。今後明らかにすべきでしょう。

最後に

Oldenburg:今回はご招待いただきありがとうございました。
近い将来、新しいデータとフィードバックをもとに、また議論したいと考えています。その際には、ADHFや慢性心不全に関する日本のデータも多く提供していただければ幸いです。

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上段左より:中村 憲史 先生、菅野 康夫 先生、義久 精臣 先生、葛西 隆敏 先生、沢田 尚久 先生 下段左より:安藤 眞一 先生、佐田 誠 先生、Olaf Oldenburg 先生、小糸 仁史 先生

総括

佐田:欧州で実施されたASV臨床試験「SERVE-HF」の結果は我々にとっては大きな衝撃であった。
しかし同時に、論文を詳細に検討すると、いくつかの疑問が生じたのも事実である。その意味でも今回、全登録患者の10%以上をエントリーされているOldenburg先生をお招きし、多くの意見交換ができたことは極めて意義深かった。議論を続けるなかで改めて認識させられたことは、我々はASVの真の適応病態をまだ何もわかっていない、そもそもASVの作用機序が充分にわかっていない、さらには心不全と睡眠呼吸障害 (SDB) との関係さえも充分にわかっていないということである。こうした状況である以上、心不全におけるASVを含めた陽圧呼吸療法の有効性を評価するためには、SDBの評価は必須である。1つの治療法が確立されるためには、あらゆるケースを検証し、結果を謙虚に、厳しく評価していく必要がある。今後、世界に誇れる、きめ細かい医療体制を有する我が国だからこそ発信できるエビデンスがあると信じている。
 

Profile

座長: 佐田 誠 先生 国立循環器病研究センター 呼吸器・感染症診療部
ゲスト: Olaf Oldenburg M.D., PhD Heart and Diabetes Center North Rhine Westphalia, Germany
安藤 眞一 先生 九州大学病院 睡眠時無呼吸センター
葛西 隆敏 先生 順天堂大学大学院 医学研究科 心血管睡眠呼吸医学講座
小糸 仁史 先生 社会医療法人美杉会 男山病院 副院長 循環器内科
沢田 尚久 先生 京都第一赤十字病院 循環器内科
菅野 康夫 先生 国立循環器病研究センター 心臓血管内科部門
中村 憲史 先生 大阪大学医学部附属病院 循環器内科
義久 精臣 先生 福島県立医科大学 医学部医学科 心臓病先進治療学講座

ASVの適正使用と今後について

■2016年04月05日

ヘッダ

はじめに

適応補助換気(ASV: adaptive servo ventilation)は、重症心不全や睡眠呼吸障害に有効であることが多く報告されている。しかしながら、国内では十分に有効活用されているとは言い難い。また、2014年における「医科点数表の解釈の明確化」により、ASV使用時における指導管理料の算定に大きな混乱が生じている。ASVを取り巻く環境にはどのような課題があるのか、ASVが適正に使用されるためには今後どうすればよいのか。ASVの導入経験例を豊富にもつ参加者が深い議論を行った。
※本座談会は、SERVE-HF臨床試験中間報告のプレスリリース前に行われました。

睡眠呼吸検査はASV の導入、効果の検証のために必須

talk01佐田誠先生(以下、敬称略)
佐田( 以下、敬称略):本日は「適応補助換気(ASV:adaptive servo ventilation)の適正使用と今後について」というテーマで、この分野で経験豊富な皆さまに集まっていただいた。まず、今の心不全治療の現状についてお話したい。

talk01大草:山口大学医学部附属病院で行った試験では、慢性心不全患者164名に対して、パルスオキシメータによる睡眠呼吸障害( SDB:sleep disordered breathing)スクリーニングを行うと、約9割の患者にSDBが認められた。また、SDBが認められた慢性心不全患者の約7割が、無呼吸低呼吸指数( AHI:apnea hyponea index)が20回/h以上のSDBを有していたこともわかった。ところが、私が所属する九州大学病院では、心不全治療においてパルスオキシメータ検査や睡眠ポリグラフィ( PSG:polysomnography)検査をするという検査ストラテジーがまだ少ない。
佐田:心不全を専門とする医師の場合、睡眠呼吸検査をあまり行わないことが多い。
大草:パルスオキシメータ検査ならクリニックでも可能なので、ぜひルーチン検査としていただきたい。

talk01義久:睡眠呼吸検査は絶対にやったほうがいい。

talk01安藤:患者が重症心不全である場合、私は基本的に全例、睡眠呼吸検査をすべきだと思う。チェーン・ストークス呼吸( CSR:cheyne-stokes respiration)が認められればASVを導入する場合が多い。
佐田:ただ、実際のところ、心不全に対してASVが有効な症例もあれば、効果が見られない症例もある。結果が十分に解析されていないので、臨床の現場でもトライアンドエラーになっている。
安藤:その点で非常に気になるのが、多くの症例でデフォルト設定のままASVを装着していることだ。設定を調整して初めて、適応できる患者と適応できない患者を見分けることができるのだが、ほとんど実施されていない。特に循環器科医は、なかなか設定を調整しようとしない。
義久:また、ASVをより正しく使おうとするなら、やはりPSG検査で効果を確かめなければならない。肺うっ血の解除や、左室駆出率( LVEF:left ventricularejection fraction)や脳性ナトリウム利尿ペプチド( BNP:brain natriureticpeptide)といった心不全マーカーの改善も指標の一つになるが、呼吸管理という観点においてはPSG検査でないと判断できない。
佐田:循環器領域において心不全治療は重要なことなので、PSG検査の重要性は啓発する必要があるだろう。ただ、現場の状況も考えなければいけない。検査技師の確保など、課題は多くある。検査実施の地域差も感じている。
義久:その通りだ。
佐田:PSG検査を行うとき、決まった病室を使っているのか。
義久:いえ、病棟で空いている部屋はどこでも使うという方式としている。
佐田:今は携帯型やワイヤレス型の装置も登場して、PSG 検査の負担は減りつつある。

CSRの治療にはASVが有効、コンプライアンスもよい

義久:『循環器領域における睡眠呼吸障害の診断・治療に関するガイドライン』では、CSRを伴う中枢性睡眠時無呼吸( CSA:central sleep apnea)が認められたときには、まず持続式陽圧呼吸療法( CPAP:continuous positive airway pressure)を行い、効果が見られなかったときには二層式気道陽圧( bi-level PAP:bi-levelpositive airway pressure)やASV、酸素療法を検討するという順番になっている。
ただ、当院では患者の心不全の既往歴などを加味して、CSRと判断したときには、最初からASVを導入している。その後、病態の変化を観察しながら、閉塞性睡眠時無呼吸( OSA:obstructive sleep apnea)が出
るようになればCPAPにダウングレードするという方針で取り組んでいる。大事なことは心不全の経過とSDBの変化を適宜見直し、その都度CPAP、ASVやHOTの適応を再考することであると考えている。
安藤:一番懸念しているのは、CPAPのコンプライアンスは比較的悪いため、最初にCPAPを導入すると、患者がマスク装着そのものに否定的になってしまうことだ。
義久:その通り。
安藤:ASVでは呼気気道陽圧( EPAP:expiratory positive airway pressure)の圧が5 cm程度なので、患者への負担が少なく、コンプライアンスも比較的よい。ところが、CPAPはそれ以上のEPAPをかけるので、患者が苦痛に感じることが多い。そこでマスク装着そのものを否定されてしまうと、陽圧呼吸療法自体が困難になってしまう。
義久:CPAPではなくて、ASVだからこそ期待できる効果はある。
佐田:その点はやはり強調したほうがいい。CSRの治療にはASVのほうが特に有効だというデータが多い。
安藤:CPAPに比べてASVのほうが快適ということもある。

急性期と慢性期におけるASV 使用の注意点

安藤:ASVの使用記録を見ると、患者の呼吸パターンが日々変化していることがわかる。CSAが出る日もあれば出ない日もあるなど、睡眠時の呼吸動態はかなりダイナミックに変化する。
佐田:その原因を特定するのはかなり難しい。
安藤:水分摂取量の差など、多くの要因が絡んでいるだろう。
義久:以前から肺毛細血管楔入圧(PCWP:pulmonary capillary wedge pressure)が高いほどCSRが出やすいということが知られている。PCWPの影響もあるのだろう。それを考えると、検査時ではSDBが認められなかった心不全患者でも、連日観察するとSDBを生じる日があるのかもしれない。
安藤:そういう意味では、家庭で苦しさを感じたときだけASVやCPAPの機器を使用するという方法もありうるかもしれない。エビデンスはないので慎重に考える必要はあるが。
佐田:ASVが登場した当初は急性期にも導入された症例が多かったが、急性心不全に対するASVの効果はどうなのか。
安藤:ハイエンドな設備がある大学病院や基幹病院では必要ないと思う。ただ、設備やスタッフが十分でない場合や、緊急時で一時的に装着させるには有効だろう。
佐田:当初、ASVの導入基準が明確でなかったので、急性期で効果が得られなかった症例があったと聞いている。
義久:大学病院なら優れた機器が多くあるので、当院でも通常は急性期の管理としてASVを使うことはない。ただ、入院するほどではないが呼吸や心不全が増悪している患者の在宅使用や入院するとしても経鼻酸素投与でも対応可能かもしれない比較的安定した心不全患者に対しては、CPAPやASVの使用は有効だと思う。個々の病態や状況に応じて使い分けるべき。
安藤:有効である病態がわかっていればいいが、最初から全てASVを使えばよい、という考え方はいけない。
義久:その通りだ。
安藤:使える症例もある、ということ。
義久:ただ、入院時に行う処置に近いことを在宅でもできるという点では、ASVは家庭で使う機器としては優れている。狭心発作のときにニトロ製剤を使うのと同じように、心不全の増悪時にASVやCPAPを使用して肺うっ血の解除を狙う側面はあると思う。
大草:当直で他科に循環器医が呼ばれたときに、つなぎで使うのも有効かもしれない。
安藤:ただ、肺炎を契機にして心不全を起こしているときには、マスクの装着が肺炎を増悪させる場合があるので、この点は注意すべきだ。
大草:特に高齢者では、肺炎によって心不全が増悪することが多い。
佐田:慢性期でASVを使用するときに注意することはあるか。
義久:一つは右心機能が低下している患者。陽圧によって前負荷が減り、心拍出量が低下する可能性が高い。もう一つが、大動脈弁狭窄症や閉塞性肥大型心筋症などの患者。うっ血が解除されてからも過剰な陽圧をかけると、血圧低下や低心拍出につながる可能性がある。
佐田:それはASVに限らず、CPAPも含めた陽圧呼吸療法全般に当てはまる。
義久:その通り。うっ血の強いときは低圧をかけることで有効だが、安定期の使用は注意が必要だ。
佐田:私のところでも右心不全につながる肺高血圧症の患者が多いので注意している。
安藤:ただ、肺動脈の血管抵抗を下げるためという意味では、もしかしたら有効かもしれない。実際、CPAP治療後で右心機能が改善されたという症例は多くあると聞いている。
佐田:左心機能の改善だけではなさそうだ。
義久:自験例だが、CPAP導入後で右室面積変化率( FAC:Fractional area change)といった右心機能や肺高血圧改善することがある。肺高血圧症の患者の一部には、陽圧呼吸療法が有効かもしれない。

ASV 導入における指導管理料算定の混乱

安藤:2014 年2 月12 日に開かれた第272 回中央社会保険医療協議会総会おける「医科点数表の解釈の明確化」のなかで、心不全患者のSDB に対してASVを使用したときに、在宅人工呼吸指導管理料を算定できないとした( 資料1 )。これは、ASV 治療に関わる医師に大きな混乱をもたらした。ところが、同年4 月10 日には、在宅酸素療法( HOT:
home oxygen therapy )指導管理料または在宅CPAP 指導管理料で算定できるという厚生労働省からの通達があり( 資料2 )、この場合には人工呼吸器加算が適応できると解釈されている。
 ただ、心不全の基準は、HOT の該当条件にしか書かれておらず、NYHA がIII 度以上、AHI が20 回/h 以上としている。実際には、これに各都道府県の条件が付加される。すなわち、SDB が認められる心不全患者にASV を導入したときでは、在宅人工呼吸指導管理料ではなく在宅CPAP 指導管理料が算定されることになる。SDB がない心不全患者に対する指導管理料は明文化されていないが、在宅人工呼吸指導管理料が加算できると解釈できる( 表1 )。
 このように解釈された結果、重症心不全患者ではSDBのあるほうが診療報酬点数の合計が低くなるという奇妙な現象が起きている。
大草:山口県では必ずSDBの有無を聞かれている。入院時のNYHAクラスとデバイス植込みの有無、移植待機中かどうかに加え、AHIの数値を聞かれる。
安藤:AHI が20 回/h 以上であれば適応される、と。
大草:その通り。ただ、本来であれば在宅CPAP 管理料となるところが、心不全が重度であれば在宅人工呼吸指導管理料が通る場合もあり、審査員も現場も混乱している。
佐田:これはおそらく、重症心不全に対する見解を厚生労働省が示していないため、異なる解釈ができてしまうためだと思う。
義久:福島県では審査員がASVの治療に理解を示しているからか、在宅人工呼吸指導管理料を申請しても断られるケースは比較的少ない。当院は大学病院のため、比較的重度の心不全患者が多いという背景があるのかもしれないが。
安藤:そのときにはSDBの検査結果は記載するのか。
義久:心不全の重症度と経過を中心に記載する。PSGは基本的に行っているので審査で求められればSDBについても記載するようにしている。
安藤:現在懸念しているのは、審査を通りやすくするためにSDB がない重症心不全というケースの申請が少なくなりつつあること。指導管理料の算定で明文化されていないため、保険適応させたいと医師が考えたときには、SDB がある重症心不全として、在宅CPAP 指導管理料と人工呼吸器加算で申請するパターンが増えている。
talk01
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SDBがない重症心不全患者、重症心不全がないCSR患者についての議論がない

安藤:ASV の指導管理料における問題には、大きく三つある。一つは、ASV を使った治療なのに在宅CPAP 指導管理料で本当にいいのかということ。次に、SDB がない重症心不全に対する見解がないために、その適応例が少なくなっていること。
最後は、心不全はないがCSR がある場合はどうすればいいのかという議論が全くなされていないこと。
 ASV が肺うっ血の解除や心機能の改善に貢献しているということを考えれば、SDB の有無にかかわらず、重症心不全患者にはASV は適応されるべきである。また、CSR を有する患者に対してはASV は
有効な治療法であるため、心不全の有無に関わらず適応されるべきである。特に、この2 点の議論が全くなされていない。
義久:既報論文データや海外及び本邦ガイドラインと日本の保険診療に、かなりの乖離を感じる。日本の保険診療は、CPAPとASVを完全に分けようとしている。しかし実際の患者では、心不全の状況によっ
て、OSAとCSA が混在したり交代したりして出現することがある。さらに、OSAにはCPAPを、CSAにはASVを導入することが、心機能や予後の改善に有効であるというデータもある。CPAPとASVを保険上
完全に切り離すのではなく、心不全患者にはどちらも使用できる柔軟性がほしい。
大草:在宅人工呼吸指導管理料は、本来は神経筋疾患といった重度な疾患を対象にしているため、診療報酬点数が高い。もう少し診療報酬点数の低い、新しい指導管理料の項目を作るのがいいのではない
か。一人一人の病態に基づいた、個別の呼吸管理治療にもつながると思う。
佐田:在宅人工呼吸指導管理料の診療報酬点数が高いことも、普及の障害になっているのかもしれない。
安藤:診療報酬点数の引き下げは検討されているが、人工呼吸器を使った他の疾患治療にも影響が及ぶため、実現するかは不透明だ。むしろ、重症心不全に対する陽圧呼吸療法指導管理料の項目を新たに作るのがいいと思う。そのためには、厚生労働省が納得できるエビデンスが必要となる。
佐田:日本でもランダム化比較試験(RCT:randomized controlled trial)を行い、エビデンスを出さないといけないのだろう。

PSG検査における保険請求の課題

安藤:保険請求においては、PSG検査にも課題がある。心不全を扱う病院の多くは疾病別包括払い制度( DPC:diagnosisprocedure combination)対象病院のため、入院中のPSG検査には診療報酬点数がつかない。少しでも診療報酬点数がつくようにしたい。
佐田:PSG検査がなかなか普及していないので、その改善も必要だろう。検査技師の確保や優遇も望まれる。
安藤:点数がつく場合でも、検査室で検査技師が終夜監視するタイプ1と、携帯型脳波検査とするタイプ2が同じ診療報酬点数となっている。タイプ1のほうが手間も費用も大きくかかるので、これが好ましい状
況とはいえない。
安藤:PSG検査によってより適正な治療を行うことができ、結果として早期の退院につながることが示せれば、患者にとっても、あるいは総合的な医療費の削減という意味でも有用であるはず。そのようなエビデンスを構築したい。

ASV離脱の基準作りも必要

安藤:これからの高齢化社会を迎えるなかで、心不全の患者も増えていくだろう。医療経済のことを考えると、ASVの導入だけではなく、離脱の基準も作るべきだ。
義久:これは私見になるが、ASVの離脱条件は二つあると考えている。一つは、心不全の安定化。これには、心不全マーカーの改善やリバース・リモデリングがある。もう一つが、CSRの消失。
佐田:ASVから離脱するとすれば、CPAPにするのか、あるいは陽圧呼吸療法を完全に止めるのか。
義久:ケースバイケースだが、ASV導入後に心不全が改善するにしたがって、CSRが消失する代わりにOSAが現れる患者はいる。そのときには、CPAPに切り替える場合がある。
安藤:離脱に関する報告はほとんどないので、それに取り組む必要があるだろう。
佐田:今後、ASVの適正使用のためには、どういう患者にASVを導入すべきなのか、あるいはどういう状態になったら離脱させるべきなのか、統一した基準を作らないといけない。

呼吸器科医との連携を目指して

大草:今回の日本循環器学会学術集会では心不全を多角的にとらえており、不整脈や神経体液性因子に関するセッションもあったが、呼吸をテーマに議論できるセッションもほしかった。
安藤:先月開かれた日本呼吸器学会学術講演会では、循環器学会との共同シンポジウムがあった。
佐田:ぜひ、循環器学会と呼吸器学会で相互に共同セッションを設けたい。循環と呼吸は密接に関係しているので、それぞれの医師が同じ場で議論するのは大事だと思う。
安藤:循環器科医には、ASVやCPAPの機器の細かい設定を苦手とする人が多い。お互いにわかり合えるようなセッションができればいいと思う。
義久:呼吸器科医から見ると、心不全患者におけるCSRの有症率は非常に高く、同じSDBを扱っていても印象はかなり異なるようだ。
安藤:当院でも呼吸器科医だけでなく、精神科医や耳鼻科医といっしょに議論する場はあるが、お互いに本当に交流できているかと言われると疑問だ。特にASVの議論になると、まだまだ意見交換が足りないと感じる。
大草:それは、心不全の理解が不十分だからか。
安藤:直感的にわかりにくい、というところはあるのかもしれない。
義久:呼吸器科医が心不全を理解する必要があるし、私たちも呼吸生理をより理解する必要がある。共通の言葉があるようで、まだお互いの理解には至っていないように感じる。
佐田:特に心不全患者では、OSAとCSAが混在したり入れ替わることが多い。一度診断して、治療を開始したら終わりというわけではない。そこが通常のOSAと違うところ。治療経過を注意深く診ないといけない。

多施設RCTを通じて、説得力のあるデータを出す

大草:重症心不全患者の8割以上がSDBを合併しているということを循環器医は認識して、治療を行うこと。そして、そのときのデータを多く出すことが求められる。
安藤:日本で今後取り組むべきことは、RCTとするためにもレジストリ( 前向き観察研究)をしっかりやることだ。一部の施設の少数例を紹介するだけでは不十分。対象施設を決め、全例のデータを記録すべきだ。
佐田:ASVの導入例はかなり多いので、貴重なデータは多くあると思う。それを持ち寄って検証するのが大事だ。
大草:日本で1000例ぐらいの症例が集まれば、説得力のあるデータが出ると思う。
佐田:PSG検査がしっかりできる多施設でやることが、データの質を上げることになる。そこは強調したい。

総括

talk01佐田:密度の高いディスカッションができたと思う。現在の日本では、保険適応の解釈に地域差があり、ASVの導入についても、それぞれの地域で苦労していることが浮き彫りになった。
今後、どのような病態にASVが有効かということを、強固なエビデンスで示していきたい。国にも呼びかけ、使われるべき患者に適切に使えるような仕組み作りを目指す。そのためには、単施設ではなく、多施設で統一したスタディを組むことが重要だ。時間はかかるかもしれないが、全員が同じ方向性をもって取り組んでいけば、保険適応の状況も含めて、少しずつ改善できると感じている。

編集後記

本座談会は2015年4月に実施された。その後、SERVE-HF試験( CSR優位、左室駆出率45%以下の安定期心不全患者を対象としたASV群vs.Control群のランダム化比較試験)に関するResmed社によるプレスリリースが出された。その中間解析結果では、ASV使用群にて突然死が増加した。本邦における患者背景や臨床実態および先行研究結果との相違もあり、SERVE-HFの解釈には注意が必要であり、詳細な解析結果の発表が待たれる。また、本邦で実施されたSAVIOR-C研究では、6 ヶ月後の心不全症状と心不全の増悪を複合した臨床複合反応はASV群で有意な改善を示し、複合心イベントの発生リスクに関してもASV群での悪化は見られていない。上記を受けて、2015年6月現在日本循環器学会、心不全学会よりステートメントを公表しており、上記基準に該当する患者に対する新規ASV導入の一時中止、現在ASV使用者における継続使用の再検討を進めている。ステートメントについては、今後のSERVE-HFの公表等を待ち修正予定となっている。

福島県立医科大学 義久 精臣 先生

 

Profile

座長:佐田 誠 先生  国立循環器病研究センター
安藤 眞一 先生  九州大学病院
大草 智子 先生  九州大学病院
義久 精臣 先生  福島県立医科大学

言いにくいところまで言いました!「オープン世代」座談会

■2014年10月29日

言いにくいところまで言いました!「オープン世代」座談会

image010休憩後の座談会では、先ほど発表した5人に加え、モデレーターとして同志社大学助教授の佐藤翔さんと、近畿大学に所属し、科学コミュニケーションに関する活動を行っている榎木英介さんが加わり、発表者同士による熱い意見が交わされた。

【佐藤】「政府の援助はあったほうがいいと思いますか?」

まず出た質問は、やはりというか、資金の問題だった。
個人として活動している堀川さんや山田さんは援助金については慎重な立場だ。

【堀川・山田】「政府の援助は、一回目は、まぁ、使ってみようかとも思うが、二回目からは活用方法が難しく、続かない」

それに対して、企業の代表である竹澤さんは違った意見だ。

【竹澤】「オープンアクセスジャーナルを運営していく上で資金は大事。学会へは資金の供給は行われているのですが、そこには企業はダメと書かれているんですね。国には、企業の株を買うなど、幅広い援助をして欲しいと考えています」

資金については、他にも様々な質問が出た。
ドネーション(寄付金)についての質問には、

【竹澤】「まず、論文を読んでもらって、そこから寄付のボタンを押してもらうシステムなんですが、まだ片手で数えられるほどしか寄付は行われていません」

と、竹澤さんはシステムの現状を語った。
それに関連してニコニコ動画のフィードバックシステムについても質問が出た。

【山田】「ニコニコ動画は再生数によって、ポイントという形で発表者にフィードバックするシステムなのですが、音楽関係など、人気のあるコンテンツというものがあります。研究という本来のものはあまり人気がありません」

【岩崎】「査読の対価について、どのくらいを想定していますか?」

岩崎さんは、査読はかなり時間を割かなければならない仕事で、常々報酬が発生すべきだと考えていたとして、竹澤さんにSPPの査読制度について聞いた。

【竹澤】「査読者の報酬については、ランク付けによる報酬制度を考えています。論文が受けた評価によってランク付けをし、そのランクによって査読者に報酬をキックバックしたいと考えています」

科学分野と他分野がいかに結びつくのか。

【駒井】「アウトリーチな学会ではなく、見るからに面白いと思えるようなモノを学会に取り入れたいと考えているのですが、なかなかうまくいかないという現状があります」

今回、アカデミアの側からの発表した駒井さんは、現在、芸術という他分野と交流を行う岩崎氏に質問をぶつける。

【岩崎】「科学者と美術家では問いの立て方が違う、ということを知らなくてはなりません。研究の場合、技術へ向かうことがゴールかもしれないませんが、芸術はプロセス自体が目的であったりします。彼らがどういった芸術家か知るために年月が必要なのです」

【堀川】「場所作りが重要です」

フリーの研究者としてどう生きていけばいいのか、という質問に堀川さんは答える。

【堀川】「サポーターや仲間がいなければ、フリーでやっていくことは難しい。研究がエキサイティングであるということを伝え、仲間を作り、研究していける場を作っていかなくてはならない」

【榎木】「オープンアクセスによって、ピペドが救われるんじゃないでしょうか」

アカデミア外で研究できる場所がオープンアクセスによって作られれば、現在冷遇されているピペド(ポスドクを揶揄するネットスラング)も精神的に解放されるのではないか、と榎木氏は期待する。

【竹澤】「色々な人がサイエンスに触れてくれればいいですね。高校生が論文を作って、そこで英語を学び、(オープンアクセスの)ジャーナルに触れてくれるようになっていけば、自然とブランドは生まれてきます」

年齢、性別、国籍に関係なく、誰でもサイエンスに触れることができ、同じ興味を持った人々が集まり、時に励ましあい、情報を共有する。そんなコミュニティの形成の手段として、オープンアクセスの重要さが認識されたディスカッションだった。

「こうしたオープンアクセスの動きは、今あるシステムを変えてくれるような、大きなうねりになるのではないかと考えます」
そんな言葉で、セミナーは締めくくられた。

こうして「オープンアクセスサミット2014」は未来へと向かう期待感を抱かせながら、その初日を終えたのである。(編集部)

 

講師紹介

・岩崎秀雄
早稲田大学理工学術院教授、metaPhorest(生命美学プラットフォーム)世話人(http://metaphorest.net/)。

・山田俊幸
明治大学米沢嘉博記念図書館勤務、ニコニコ学会β実行委員(http://niconicogakkai.jp/info/)。

・竹澤慎一郎
ゼネラルヘルスケア株式会社代表取締役(http://www.ghjapan.jp/)、SPP編集長(http://www.spp-j.com/)。

・駒井章治
奈良先端科学技術大学院大学バイオサイエンス研究科准教授、日本学術会議若手アカデミー委員会委員長(http://www.scj.go.jp/)。

・堀川大樹
慶應義塾大学SFC研究所所属、フリーの研究者としてむしブロを運営。(http://horikawad.hatenadiary.com/

・佐藤翔
同志社大学社会学部助教授。専門は図書館情報学、特に利用分析。

・榎木英介
近畿大学医学部。病理専門医、細胞診専門医。

前回「オープンアクセスサミット2014」に行ってきました



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